ただ羽を休め

 やっと休日が来た。特に用もなく町に出て、書店で新刊の本を手に取ってみたり、気になるブランドのお店を横切ったりして帰る。家でパンを口にしてだらだらしていると眠たくなって、枕から顔を上げればもう夕方になっている。そう言う風にして、あっという間に休みがおわってしまう。

 平日の朝、職場に向かうまでは身体が重たく感じられる。学生の頃は、自分が働いている姿なんて想像できなかった。シャツに袖を通し、扉を開けて風を浴びる。朝の彩りを受けて、会社員や学生とともに町の歯車になる。チャイムが鳴り、働きはじめてみると、身体が仕事に順応して動きだす。

 話は変わるけど、僕の好きな人がエッセイの中で「没頭することの重要性」を説いていた。頭にかかる深い霧を切り払うには、それを忘れるほど没頭できる何かが必要なのだと。僕は、冷水で顔を洗ったような気持ちを覚えた。それを意識しているわけではないけれど、仕事をしていると自然とそのことを思い出す。身体を動かしている間は、心に薄闇が入り込む余裕はなく、帰ってきても疲労ですぐ眠ってしまう。健やかに日々を過ごせているように思えて、嬉しかった。

 しかしながら、無理をしていたせいだろうか、先日熱が出て仕事を休んだ。身体はだるく、喉は熱い。もしかして流行病かもしれないと思い、病院で検査を受けたが陰性の反応が出た(安心した)。布団に寝ながら、ときどき読みかけの本を捲り、知らない音楽を漁った。ぼんやりと天井を見つめ、思考に耽った。不思議と職場のことは気にならなかった。自分の身体を信じきっていたところはあったけれど、なぜあれほど張り切っていたのか、よくわからなかった。

 休日、眠れない夜は死にたいと思う。没頭することに明け暮れて、結局、僕自身は何も変わっていない。本の中にお気に入りの一節を見つけたり、ニュースに目を通して怒りをきれいに整理したりする、たしかな余裕が僕には必要で、そのためには休息が大切だ。何度も言われていることだし、僕も前に文章に書いたことなのに、仕事することの快楽にかまけて、忘れてしまっていた。だから、ここまでだらだら書いておいて、言いたいことは一つしかない。休みは必要だ。

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